ねずみくんの冒険
2022/粘土、油彩、アクリル塗料、ドローイング、メモ、小学生の頃遊んでたものと描いていたもの、陶器、CD、音声
exhibition:グループ展 「踏み倒すためのアフターケア」/3331 Arts Chiyoda アキバタマビ21


ねずみくんになって、彼らをたすけることが僕にはできるのか。

小学校の頃から、小さくて愛らしいねずみに親近感があり、好きな動物だった。

ねずみを主人公にした物語をよくつくっていた。兄や空想の世界の住人とたくさんの冒険に出かけていた。登場する茶色いねずみくんは、ボク自身だった。

アルジャーノンというハツカネズミは、チャーリーという自閉症の青年と共に、脳の知能指数をあげる実験台になり、管理されてみんなに消費された。

僕はアルジャーノンのようなネズミ達をたすけるため、今一度ねずみくんになって、同じ視点に立ち冒険に出る。

たすけることを試みるねずみくんのボクを、みんなはジオラマを見るように、遠くから何も言わずに眺めている。そんな僕もみんなを遠くからチューチュー鳴きながら眺めるだろう。

ねずみくんになって、彼らにたすけられていたのは僕かもしれない。

グループ展 「踏み倒すためのアフターケア」
場所が持つ文脈を表現に取り込む時、少なからず矛盾や困難が生じる。

この展覧会に参加するのは、独り地方で制作する者、山を愛す者、不親切なギャラリーを運営する者、特定の地域を題材に制作する者、他者との対等な関係を模索する者、いずれも独自の場所と関わり続ける5人のアーティストである。

特定の地域や、コミュニティ、自然環境など、表現が生まれる場所とその表現の関係を意識してみる。すると、場所固有のレギュレーションや、コミュニティへの不適応、場所に由来する他者の期待と表現の方向性の違いなど、矛盾や困難と直面する。それらを引き受けながら表現を成立させるためには、場所に由来する誰かの期待を、踏みにじりこそしないが踏み倒すことがあるのではないか。場所と表現は必ずしもギブアンドテイクの関係ではない。

展覧会のタイトルである「踏み倒すためのアフターケア」とは、「表現と場所との関係の中で生じる矛盾や困難を引き受ける」ための「遅効性の還元要素」という意味である。またそれは、アーティストが、他者を尊重しながらもその理想に媚びずに済むように、そっと忍ばせる約束である。